「川崎重工業 代表取締役解職クーデター」から学ぶ会社法②
川崎重工 代表取締役社長ら3名解職のクーデター、三井造船との統合交渉が白紙に
6月13日 臨時取締役会で、代表取締役社長だった長谷川 聰氏ら3名の役員が、代表取締役・役付取締役の職を解きました。
また、三井造船株式会社との経営統合交渉も白紙に戻った事も合わせて発表されました。
株主総会を前にした異例のトップ交代に衝撃を受けました。
この措置の理由として公式発表に「多数の取締役の意向に反した業務執行を強行しようとするなど取締役会を軽視した行動があった」とあります。
どういう事でしょうか?
まずは、造船業の現状から。
かつて50年近く新造船の建造量で世界のトップだった日本は、今や韓国や中国に追い抜かれて苦戦しています。
コスト競争力で勝る韓国・中国に対応していく必要がありました。
国内造船・重機2位の川崎重工業と同5位の三井造船
ただし川崎重工の現在の主力事業は航空機や鉄道事業等で造船事業は10%以下となっています。
代表取締役社長であった長谷川氏らは不振の造船事業を立て直すべく造船事業が主力の三井造船との統合を他の取締役の意見を無視して進めていました。
しかし、他の多数の取締役は、不振の造船事業が強みの三井造船と鉄道や航空機などが強みの川崎重工が統合してもメリットがないという判断でした。
つまり、経営路線をめぐる取締役の対立が今回のクーデターの要因であると推測できます。(明確には書かれていません。)
ここから、会社法{会社の設立・解散、組織、運営、資金調達(株式、社債等)、管理などについて規律する法律です。}の話です。
社長って簡単にクビにできるのでしょうか?
→ 法的な要件、手続きが必要です。
今回の時系列は以下の通りです。
① 6/13 臨時取締役会開催 「代表取締役・役付取締役の異動」
② 6/26 定時株主総会開催 「取締役の退任」
「取締役会と株主総会」
取締役会とは、取締役が集まって会社の方針等を決議する会です。平たく言えば社長や専務・常務・役付でない取締役(平取締役等と言います。)等のお偉方が集まる会
議です。
平成18年に商法という法律から会社法という法律へ変わったのですが、現在の中小企業においては取締役会を設置するかは任意となっています。
(一定の例外を除きます。)
取締役会は3人以上の取締役+監査役(取締役を監視する人)が必要となります。(※一般的には監査役ですが監査役に代わる役職を置く場合もあります。)
最近増えてきた1人社長という形式であれば取締役会を設置する事はできません。(一人で会を開いていたら怖いですよね。。)
株主総会は前回触れましたが、会社に投資してくれている株主に対して経営状況等を報告する会です。
①6/13 の「臨時」取締役会の臨時はその名の通り「代表取締役等の異動という特別に開かれた会」という意味です。
簡単に会を開いて決議できるわけではなく法律で要件が定められています。
(会社の法律である定款にも要件が加重されている場合もあるため注意が必要です。)
定款に定めがない事を前提とすると
取締役の過半数が出席すると取締役会が開催されます。
次に議案の決議になりますが、出席取締役の過半数の賛成が必要となります。
(今回は解職の決議であるため対象となる取締役は頭数には含まれません。)
13名の取締役がいましたが対象となる3名を除く10人で判定します。
6人以上/10人 → 取締役会 開催、議案可決 (1人欠席者がいると開催、可決の必要人数が異なります。)
議案の「代表取締役・役付取締役の異動」って?
「平たく言えば社長とそれについてきた役員が辞めさせられたんでしょ?」
→違います!
取締役会で取締役を退任させる事はできません。株主総会の事項です。
取締役会で決議できるのは代表取締役の選任と「解職」です。
長谷川 氏 代表取締役 社長 → 役なしの平取締役
高尾 氏 代表取締役 副社長 → 役なしの平取締役
廣畑 氏 常務取締役 企画本部長→役なしの平取締役
※ 今回、取締役会で行われたのは「解職」です。(解任ではありません。)
② 6/26 定時株主総会開催 「取締役の退任」
ここで先ほど触れました通り株主総会で取締役の退任が行われます。
ただし、取締役の解任決議が可決されて、というわけではありません。
今回は、「任期満了に伴い上記3名以外の10人の取締役を選任する。」という議案です。
(解任という表現を使用している報道もありますが厳密にいえば取締役会で解職→任期満了につき退任です。)
今回のクーデター、経営統合交渉破綻を受けて造船業界の再編の加速が予想されます。
新たなパートナーとの再編を模索する可能性があります。今後の動向に注目していきたいと思います。
長々と書きましたが、ご質問等あれば何でも聞いていただければと思います。
また、昨年夏にドラマで放送されていた小栗旬・石原さとみ主演の「リッチマン・プアウーマン」の第7話を見ていただければイメージがつくかと思いますのでご参考までに!
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30代税理士 竹下 和彦